逆襲 の 処刑台 がちゃん、と、重々しい扉が音をたてて閉まった。 そんな様子を、ロロは、少しだけ振り返ってみて、そして、すぐに目の前にいる自分の兄へと視線を向けた。 目の前には、自分と同じ、黒い制服を身にまとった、兄。 目に眩しい黄緑の長い髪を持つ、C.C.。 そして、仮面の指導者、ゼロ。 (……ゼロ……?兄さんが、ルルーシュが、ゼロなはずじゃ…?) おかしい。 渡された資料にはそう書いてあったはずだ。 自分の仮の兄、ルルーシュ、その人が、ゼロ、なのだと。 にもかかわらず、自分の目の前には兄とゼロがいる。 確かに、ここ数日、ゼロが現れてから以前よりも厳しく兄を監視していたのに、兄には、アリバイがあった。 それはヴィレッタも確認済みだ。 しかし、けれども。 これはいったいどういうことなのだろうか。 話に、展開に、ついていけず、ロロは、落ち着きなく、あたりへと視線をめぐらす。 そんなロロの様子に気がついたのか、ルルーシュがロロへと振り返り、大丈夫だからと言って小さく笑みを浮かべ、頭をそっと撫でた。 未来をくれると言ったヒト。 信じてもいいのだろうか。 本当は信じたい。 初めて、自分に、家族というものを、愛情というものを、くれた人。 あたたかくて、でも、それがどうしようもなく涙を誘って。 所詮、自分は、妹の代わりで、偽者なのだと言い聞かせてきたけれども、一年という時間は、長すぎた。 けれども、そんな視線に耐え切れず、俯いてしまう。 そうすると、兄は、もう一度、大丈夫だからと言って、今度は手を握ってきてた。 あたたかい、手。 その手を引いて、ルルーシュは、一歩、ゼロへと踏み出る。 「ゼロ、この子がロロだ。おれの、おれたちの、弟」 「……ルルーシュ、確か私は、そのロロというやつを始末する、と、お前から聞いていたのだが」 始末。 やっぱり。 やっぱり、自分は、このヒトの弟なんかでも、家族なんかでもなくて。 あぁ、ここで家族ごっこはお終いなのか、未来を、くれると、家族だ、と、言ってくれたじゃないか。 そう、ロロは思う。 思うけれども、言えるはずもなく、だから、唇を噛み締める。 すると、予想外の衝撃が身体を襲った。 ぱちぱちと目を瞬かせる。 自分は今、ルルーシュに、兄に、抱きしめられている。 「ゼロ!ばか!ロロの前でそんなことを言うな!可哀相だろう!」 「ちょっと待てルルーシュ、むしろ私の方が可哀相だ。生まれてから二度目だ、こんなにもルルーシュが理解できないなんて」 一度目は枢木との交際宣言のときだったな…。 どこか、ゼロはうなだれてぽつりと言葉を落とす。 なんだろう、画面で見るゼロとは違い、なぜあの仮面からこんなにどんよりとしたオーラがでている。 というよりも、兄がゼロでないのは分かった。 しかし、ならば、このゼロにここまで意見を言える兄は、一体何者なんだ。 「ゼロ、いい加減にその仮面を外せ。おれは今、黒の騎士団のゼロじゃなくて、ただのゼロ、おれの兄の、ゼロと、話してるんだ!あと、その一人称も止めろ」 「…あ、に…?」 兄。 それは、自分にとってもルルーシュ。 しかし、今、この人は、そういう意味で言ったのではない。 ルルーシュにとっての、兄。 そういう意味で言ったのだ。 すると、ゼロは、大きくため息をついて、仮面を、ゆっくりと外した。 そして、出てきたのは、ルルーシュと、同じ、顔。 「……ふたご…?」 ぽつりと呟く。 そうすると、ルルーシュは、その言葉にふわりと笑う。 肯定、と、いうことだろうか。 しかし、肝心のゼロは、苦い顔をしたままだ。 兄。 双子。 そして、納得した。 だから、今まで、ルルーシュにはアリバイがあったのか、と。 ゼロは、確かにルルーシュでもあり、そして違う人物でもあったのだ。 外見的特長は、その紅玉だろう。 紫と紅の、オッドアイ。 きっと他にも違うところはあるだろうけれども、これが、一番の違い。 「ロロはいい子だ。確かにナナリーの居場所を奪ったのは許せない。だけれども、ロロも、守りたい。おれの、弟なんだ」 「だが、そいつは謂わばブリタニアの駒だ。わかるだろ、ルルーシュ?俺は反対だよ」 「そいつじゃない!ロロだ、ゼロ!それに、おれは約束したんだ。ロロに未来をあげる、と。家族も、愛情も知らない、未来だって。だから、反対するなら、いくらゼロでも…!」 「………わかった、わかったからそんな目で見ないでくれ、ルルーシュ……」 はあぁ。 大きなため息を一つ。 ゼロは、うなだれた。 そんな姿を見ていたのか、後ろからC.C.の笑い声が聞こえる。 そして、振り返る、ルルーシュ。 「ロロ、これで、もう大丈夫だ。おれと、ゼロが、お前を守ってあげる。未来を、あげる」 「…ルルーシュ、俺は言ってないぞ、そんなこと」 「ゼロはちょっと黙ってろ」 「………」 ぎゅ、っと、抱きしめられる、身体。 ふわふわとしたブランケットで抱きしめられているようで、それは、とてもあたたかく、一年間感じてきたものと、同じ。 紫の瞳は、優しく細められていて、だから、なんだか、その瞳を見ていたら、やっぱり、とても嬉しくなったのと同時に、なぜだか涙が出そうになった。 「いいの?本当に、僕が、僕は、まだ、兄さんの弟で、いいの?」 「当たり前だ。おれは、ロロの兄で、ゼロだってそうだ。ナナリーも、いる。おれたちは、家族だ」 お前に、あんな世界は似合わないよ。 そう、言われたら、我慢していた涙が、ぽたぽたと、流れ出した。 あぁ、あぁ、シアワセだと、感じる。 やさしい世界。 これから、偽りだなんて、思わなくてもいいのだ。 これから、本当の、家族だと、そう思って接して、いいのだ。 ぎゅう、と、自分からも、腕を回すと、くすりと、耳元で、笑みを零された。 ロロは泣き虫だな、なんて、言葉と共に。 「おれ、弟が、ずっと欲しかったんだ」 「………結局、ルルーシュがそいつに絆された、と、いうことか」 「そいつじゃない。…嫌いになるぞ、ゼロ」 「……すまない」 そんな兄たちに、つい自分まで、笑みを零してしまった。 逆襲 の 処刑台 家族、が、できた日 [*前へ] |